ひとり焚き火で得られる自分とのコミュニケーション
あわただしい日常を離れ、自然の中、非日常に身を置く。自分の前には焚き火がある。余計なことは考えない。ただ焚き火を見つめ、薪をくべる。自分がやりたいこと好きなことだけをやる。
何もしないぜいたく。静かにひとりの時間をもって深呼吸する。心がすーっと洗わるような気持ちになる。そんな特別な空間がひとり焚き火です。
コミュニケーションとは他者との対話だと思っていました。でもひとり焚き火をやって気づいたことがあります。それはコミュニケーションには自分自身との対話もあるのだと。
自分のことがわからずに相手とのコミュニケーションはできません。自分の心のコンディションが良い状態ではじめて他者とのコミュニケーションが成立するからです。
忙しさにかまけ、日常に追われる毎日。目の前のことだけに必死になる自分がいます。そもそも自分はどうありたいのか?そのために今何をしているのか?たまには自分としっかり向き合う時間が必要です。そうはいっても自分としっかり向き合い、対話するなんてそうそうできるものではありません。
そんなときひとり焚き火をおこしてみる。揺らぐ炎を見つめてみる。パチパチとした音を五感で感じてみる。焚き火をじっと一人で見つめていると自分の内面への語りかけができます。
こうして自分とのコミュニケーションができると、自分がどうありたいのかがわかってきます。明日から新たな活力が湧いてきます。そしてワクワク感も増してきます。焚き火を節目に自分をリセットすることができる。
ひとりは孤独ではありません。火とともに呼吸を整えながら自分との対話をしてみましょう。ひとり焚き火は「心を整える」最良の方法と言えます。
心を解き放つことができる
ある日、basekokkoに一人の女性が宿泊にいらっしゃいました。ひとりで焚き火をして見つめたいというのが理由でした。焚き火をしたことがないので大まかなレクチャーをしてほしいとのこと。最初に近隣の森まで一緒に焚き付け拾いにいきました。
「焚き付けの枝拾いからワクワクしちゃいました」こんな話をしていました。それからひとりで焚き火をして過ごしていました。「人はみんな焚き火をした方がいいです」帰り際話してくれました。印象に残る出来事です。
自然に囲まれ雑音のしない静寂の中に身を置くと心が落ち着いてきます。そんな中、燃えさかる炎、薪が爆ぜる音に耳をすませてみてください。焚き火の炎を見つめながらゆっくり流れる時間を過ごすと、自然と心が穏やかになります。
だんだんと安心した気持ちになります。何時間見ていてもまったく飽きることはありません。あれをしよう、これをしようなんて気ぜわしく考える必要はありません。多忙な毎日や町の喧騒から離れ、自然の中に溶け込んでいく感じです。何もしない、ゆっくりとした時間を過ごす。
まさにぜいたくの極み。精神的に安定することで心が解放される感覚になります。1/fゆらぎによる効果もあるでしょう。規則的でも不規則でもないその揺らぎが人の心を癒します。寝る前に焚き火の動画をずっと見入ってしまうという人がいますが、これも事例の一つと言えるでしょう。
現代社会はストレスのかたまりです。焚き火の前にしばらく身を置きます。静かに深呼吸をしてみます。するとからだの中に溜まっていたストレスが抜け落ちていくような感覚になります。
「ここにいたらストレスがだんだん浄化されていくような気持ちになりました」basekokkoを訪れた人がこんな話をしてくれます。まさに内面からのデトックスと言えるのではないでしょうか。
ストレス対処方法には3つのRというものがあります。一つ目がRest(休養)です。オンとオフを切り替えたり、適度にからだを動かししっかり休みます。二つ目がRecreation(娯楽やたのしみ)です。
たのしいことをしてリフレッシュします。三つ目がRelax(リラックス)です。心身の緊張や不安を解きほぐしてゆったり過ごす時間をつくります。焚き火をすることには3つのRが含まれています。
さらに転地効果と呼ばれるものがあります。転地効果とは、日常生活を離れ、豊かな自然の中にたたずんだり、のんびりとした場所の空気の中にいるだけで、気持ちがリフレッシュされたりストレスがやわらげられたりするような働きのことを言います。
焚き火をすることで周囲の自然との一体感が得られます。自然の静けさの中に身を置き、ただひたすら焚き火だけをする。何もしないことに意味があります。
晴耕雨読という言葉があります。晴れた日には田畑を耕し、雨の日には家で読書する。 世間の煩わしさを離れて自由気ままに生活することで、悠々自適として自然のままに生きる様をいいます。
晴れた日は外で活動し、雨ならば内にて活動する人間本来の姿を示しています。焚き火をすることで人間本来の姿、原点を振り返ることができます。
五感を目覚めることができる
人間には五感があります。五感とは、目・耳・舌・鼻・皮膚を通して生じる五つの感覚で視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚といいます。日常生活の中で無意識のうちに使っているものです。
焚き火をすると一度に五感が開き、一つひとつが研ぎ澄まされていきます。五感すべてが一度に感じられるものなんて他ではそうそう見当たらないと思います。
木を見ているとあたたかさを感じます。勢いよく燃える炎、ゆらめく姿、落ち着いて熾火になって赤々とした火。いつまでも眺めていて飽きることがありません。無意識のうちに見入ってしまう自分がいます。
夕方になりだんだんと暮れていく夜空をやさしく照らす炎。「夕暮れってこんなにきれいだったんだ」改めて心が動かされます。焚き火をすることで周辺の闇が際立ってきます。人工の光がない中であれば漆黒の暗さを感じることができます。
焚き火ならではのパチパチと薪が爆(は)ぜる音。小鳥のさえずり、虫の声、風がそよぐ音。日頃は気にもとめることがない自然の音が心地よく入ってきます。木の香り、土のにおい、森の香り、煙のにおい。燃やす薪によってにおいは変わります。
焚き付けを拾い、薪をくべます。手袋をしないで直接触わることで木のぬくもりや地面の温度を感じます。土の感覚は素手でないとわからないものです。
鍋をかけた焚き火を見つめながらゆっくりと過ごす時間は心を落ち着かせてくれます。「大根の葉っぱってこんなにやさしい味がするんだ」「茄子を焼くとジューシーで甘味が出てくる」焚き火で野菜を焼くとそのものの甘みや旨味が感じられ、素材を生かした料理を味わうことができます。食材そのものの美味しさがわかると生活の質まで上がっていきます。
寝転がって空をぼーっと眺めたことってありますか?見渡すかぎりに広がる空が刻々と表情を変えていく様子。虫の声にはこんなにいろいろなものがあって季節によって変わっていくこと。風が吹いてくる方向、風の強さ、風が運んでくる香りにも違いがあること。焚き火をすると周囲の環境変化に気づくことができます。
以前やっていた焚き火の宿にはいくつかの薪棚がありました。割りたてのもの、乾燥させて時間の経ったもの、針葉樹と広葉樹などに分かれています。薪棚の前を通ると木の発する何とも言えない良い香りに心地よさを感じます。薪が乾燥しているときは乾く音も聴こえてきます。
まな板やテーブル板用で切り出したスギ、ヒノキを部屋の中に置いておくだけで、木の香りが漂い、気持ちが安らいでいくのがわかります。以前映画で、山奥の村に林業研修にいった若者が都会に戻ってきて、建築現場の木材の香りに吸い寄せられていくシーンをみたことがありますがわかる気がします。木がもつ力はこんなところにもあります。
じっくり見る、耳を澄ます、香りを感じる、素材を味わう、素手で触る。普段使わない五感を一度に開くと、感性が研ぎ澄まされていきます。自然と一体になって五感が研ぎ澄まされるとだんだんと頭が冴えてくるのがわかります。
すると今まで見逃していたようなことにもアンテナが立つようになります。小さな変化が感じられるようになります。毎日の生活で「気づける」ことはとても大切な感覚です。
焚き付け拾いに行ったとき、「こんなところに木の実が落ちていた」とたのしそうにしている姿を見ることがあります。子供の頃は五感が働いていました。ちょっとしたことにも感動していました。それは感受性や好奇心が高いからです。
小さなことにでも感動できる力は表現力、想像力を培うことにつながります。こうしたことの積み重ねで毎日のささやかなことにも幸福感を感じることができるようになります。
現在、山と町を行き来する二拠点生活を送っています。山の拠点は標高700メートル。人はいないし雑音もしません。シーンと静まりかえる時間が続きます。聞こえてくるのは風がそよぐ音、木々や葉の音、小鳥のさえずり、虫の声だけ。山に来ると空気そのもののおいしさを感じます。
夜は人工的な明かりがないので真っ暗闇の世界になります。朝起きると体感温度が違う。落ち葉の数が増えた。日の暮れ方が早くなった。日々季節の移り変わりも感じることができます。こうした環境に身を置くと五感が研ぎ澄まされるのを実感します。同時に頭の中がクリアになっていきます。
焚き火で五感が覚醒しアンテナを立てられるようになることで、より自分の中にあるものが鮮明に感じられるようになります。五感は人間らしさを取り戻す感性です。こころとからだはつながっています。
ストレス社会の中、自然から離れた生活を続けていると身体はさまざまな変調をきたしてきます。シンプルに感覚を感じることが心身ともに健康でいられる秘訣でもあるのです。
僕は働き方にモヤモヤした人が自律して生きていくサポートをする仕事もしています。相談に応じる中、よくあるのが知識を得たいという話です。知識があれば抱えている問題が解決すると誰もが思っているからです。
でも実際のところ知識はあまり役に立ちません。知識を得ようとすると頭でっかちになるだけです。実際に体験してみてそのとき必要になった知識を習得していくというのが正しい順番です。現代人は知識偏重になっているのではないでしょうか?知識を得る前に感じる。焚き火はそんなことまで教えてくれます。
頭を空っぽにできる
「やらなきゃいけないことがある」「時間に追われている」「周囲に認めてもらえない」「モチベーションの波が激しい」「なんだか落ち込んでしまうときがある」・・・日々いろんなことがありますよね。
あれもこれもやらないといけない。これ以上にっちもさっちもいかない。ちょっとしたことでイライラしたり、落ち込んでみたり。行き詰った状態に追い込まれることもあるでしょう。
そんなときはまず自分の頭の中を整理する時間をつくることが必要です。火を見ながら何も考えず、周囲のことを気にせず、ただボーっとすることです。毎日の生活にどっぷり浸かっていると、本来の自分を見失ってしまいます。
炎の揺らめきを見つめ木の爆ぜる音に耳を傾けると、普段味わった事がない静かなる高揚感が心と体を満たしてくれるはず。時間を忘れて炎と向き合うことでそれができます。
ある人は焚き火でバスタイムみたいと言っていました。お風呂にゆっくり入るとあたためられて身も心もほぐされて、リラックスした感覚になりますよね。焚き火の傍らとの共通点がありそうです。
パソコンを使っていてインプットする情報量が多すぎるとメモリオーバーになってフレーズしてしまうときがありますよね。その状況から抜け出すために電源を落としてリセットします。
人間の頭の中も同じです。時間に追われる多忙な毎日。ネットやメディアからあふれるように入ってくる情報。こんなことを続けていたらオーバーフローするのも当たり前です。まずは頭の中をリセットしてください。
頭が空っぽになるといろんなことが吸収できます。心の中もまっさらになります。焚き火の火を見つめていると、新鮮な気持ちになり、心が洗われるような安心するような不思議な感覚になります。
大阪ガスと東北大学の川島隆太教授との研究結果によると、火を使うことで脳が活性化されることがわかっています。頭の中をリセットするサポートを焚き火が担ってくれます
焚き火にまつわる一連の作業も心を整えるのに重要なプロセスです。まずは薪づくり。薪をつくるには玉切りという丸太を使います。丸太の一つひとつはかなり重い。動かすだけでもひと苦労です。
斧で割っていきます。気持ちを集中して斧を降り下ろします。余計なことを考えているとケガをします。丸太が真っ二つに割れたときの爽快感はやった人だけが味わえる醍醐味です。
太い薪は火付きがしやすいように細くしていきます。これを小割りといいます。小割りには手斧やナタ、ナイフを使います。小割りしたものを集めるのも手間がかかります。斧やナイフなどの刃物は定期的に研がないといけません。研いでいるときは無心になります。一つひとつの作業に没頭します。
まさに頭の中は空っぽです。頭が空っぽになるとはじめて新鮮な情報が入ってきます。逆に頭の中がぐちゃぐちゃだと余計なものがじゃまして何も入ってきません。目の前のことにただひたすら没頭すると思わぬ力が生まれてきます。
忙しいという字は心を亡くすと書きます。心ここにあらずになっている状態です。忙しいときほど頭を空っぽにする時間を意識的につくってみることです。火を見つめながら、風を感じ、内省を深める。
そうした中から気づきやひらめきが生まれる。時間やスケジュールに追われる毎日から抜け出して「余白」をつくること。ひとり焚き火で空っぽな自分をつくってみましょう。
集中とリラックスが同時にできる
マッチで着火する。軸をつたう炎を火口へそっと向けていく。集中せざるを得ない瞬間です。
薪をいじる。崩れた薪を直して空気を通り道をつくってやれば火は勢いを増します。逆に広げると火は小さくなります。もうその世界に没入しています。火おこしは人のDNAを揺さぶります。
そう焚き火には人間の根っこの部分を揺さぶる効果があるのではないでしょうか。焚き火をつくることだけで他では味わえない集中力が得られます。
焚き火見つめていると心が落ち着きます。集中とリラックスの両方が一度に得られるのは火の力がもたらす効果です。禅やマインドフルネスでいう「いまここに集中する」という要素を体感することができます。
ヨガや瞑想は能動的にその状態を求めていくものです。それに対し、焚き火は傍らにいるだけで自然に集中とリラックスが同時に得られる状態になります。
集中とリラックスが相乗関係にあることはスポーツの世界でも見ることができます。現役時代のイチロー選手がバッターボックスに入る前に入念に同じ動作をしていたことは有名な話です。ボクサーがリングに上がる前に待合室で座っているシーン、力士が制限時間いっぱいで塩を取りに行くシーンなどもそうです。
焚き火と言えば夜というイメージがあるかもしれません。一方で朝の焚き火もオツなものです。そしてリラックス効果を上げるには、「朝焚き火」がおすすめです。ちょっとひんやりした朝の澄んだ空気と静寂、差し込んでくる朝日のあたたかさ、木々に光があたり葉の色が映える、こんな風景は日中とは別物です。
まずは大きく深呼吸してみます。新鮮な空気が身体の中を巡っていくのがわかります。近隣に焚き付けの枝を拾いに行くと小鳥のさえずりを聴くことができます。澄んだ空気と焚き火の空気が一体となって独特の心地よさをつくってくれます。
焚き火でコーヒーを淹れる焚き火カフェもおすすめです。拾ってきた焚き付けをもとに自分の手でイチから火おこししてお湯を沸かします。空を見上げながらミルで豆をひきます。沸いたお湯でゆっくりドリップします。ほんわかコーヒーのいい香りがしてきます。
コーヒーメーカーで淹れるのと比較したら大変な手間で労力がかかります。でもいつもと違う一つひとつの動作をすることでゆったりとした気持ちになることができます。焚き火をいじりながらお酒を飲むとエンドレスな時間を味わうことができます。
焚き火づくりは同じようなことをしているように見えて、毎回条件が少しずつ違います。焚き火を上手につくるには工夫が要ります。試行錯誤しながら上手くいったときには達成感もあります。
火をおこし、少しずつ安定するまで育てていく。薪を足したりいじってみたり。やがて燃えた薪が熾になり、最後にはきれいな灰になります。この一連の作業をする中で得られる集中力とリラックス効果を味わってみてください。
しっかり自分と向き合える
ひとり焚き火はとにかく自由です。何の縛りもありません。誰かにじゃまされることなく、周囲に気を遣う必要もありません。自然を感じながらのんびり静かに過ごせます。やりたければ、ずっと焚き火をし続けることもできます。
「まずはテントを立てよう」「次は食事の準備」周りに人がいるとそうしなければなりません。知らず知らずに気を遣います。そうなるとどこかで無理をしている自分がいます。誰かと一緒に行くと周囲に合わせないといけなくなります。自分のペースも乱されます。
自然の中に身を置いて、水を汲んだり、火を熾したりしているといやなことも忘れていくから不思議です。知らず知らず、火を見つめることに没頭している自分がいます。行ったり来たりしながら自分と対話している感覚になります。
焚き火が悩みごとも受け止めてくれる感覚になります。フラットな心になって自分自身を見つめ直すには絶好の状態になります。オレンジや赤い炎は人を内面化させるとの説もあるようです。
スマホの電源を切って普段の世界との接点も絶ってみてください。どれだけデジタルや便利なものに縛られた生活をしているかがわかります。誰とも話さない、自分との対話ができる時間。自分の中にある心の声を聴く。深く内省してみる。忙しい毎日の中では決してつくることができない貴重なひとときです。
焚き火づくりは、個人の技術、知識、経験によるもの、気温と湿度、雨と風、入手できる燃料の種類などの環境によるもの、道具の性能や種類によるものなどにより変わります。さまざまシーンにも遭遇します。
例えば火が小さくなったとき。あわてて風を送ってみたり、薪のくべ方を変えてみたり、周りを石でせき止めてみたり。いろいろやってなかなかうまくいかないと思っていたら、自然に吹いた風に煽られ火が大きくなったりします。
二度と同じ焚き火は存在しません。そう一期一会なのです。二度と巡ってこない今この貴重なご縁を大切にしよう。そんな時間が自分自身と深く向き合う時間を演出してくれます。大切なことは自分の心に素直になることです。自分の内面、そのままの気持ちを承認することで、次のステージが見えてきます。
いろんな本を読んだり、ノートに書き出すことも良いでしょう。でもいつもの場所で頭だけで考えていても堂々めぐりを起こすだけです。そんなときは自然の中に身を置く時間をつくってみましょう。何も考えることなくただひたすら焚き火をしてみる。すると自然を身近に感じることができます。
そのままの自分で人間らしくたのしく毎日を送っていくこと。それが一番なんだと気づくことができるでしょう。心静かに本来の自分を見つめられるひとり焚き火。やってみてください。
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