焚き火民泊立ち上げ記録|山林から空き家さがしへ
焚き火を仕事として関わって5年以上経った頃。
「焚き火はどこでやっているのですか?」「焚き火はどんなところだとできるのですか?」いつも受ける質問です。それに対し「焚き火ができる場所ってそんなにないんですよ。キャンプ場に行ってやっています」と答えていました。
焚き火イベントを企画します。まず場所を予約しないといけません。予約となると日程に制約が出ます。人気の場所はうまってしまっています。行ったとしても現地のルールがあります。「直火ができない」「隣りと近い」何かにつけて自分が思った通りのことができません。
「キャンプ場でやっている」というところに違和感がありました。誰かの場所を借りてやるのは迎え入れていることにはなりません。「いつでもおいでよ。焚き火を囲もう」そう言えないと本当の意味で焚き火をシゴトにしているとは言えません。そんな思いが充満していました。
誰かに文句を言われることがない。自分が焚き火をやりたいと思ったらすぐにできる。周囲にも干渉されることがない。自分の思うまま好きに焚き火がやりたい気持ちが強くなっていきました。
自分たちが好きなときに好きなように焚き火ができる場所。今日焚き火を囲んで話したいなあと思ったらすぐにでも行ける場所。そんな場所をつくりたい。そんな思いのもと動き始めました。本記事は自由に焚き火ができる場所をつくるまでの記録をまとめています。
自分でつくってみたらどうだ?にワクワクする
最初は空き家で焚き火ができるような庭がついているところを探そうと考えました。以前からお付き合いのある土地の人にどこか空き家はないですか?と声を掛け始めます。
そんな年の瀬を迎えたある日のこと。いつもお世話になっている林業家さん宅に年末のあいさつに行きました。いつもこの時期はだるまストーブを囲みます。風情があります。
空き家の話をしていると、「田舎で空き家を探すのは容易じゃないよ。どうせやるなら何もないところから自分でつくってみたらどうだ?」「山林なら二束三文だぞ」「その方がたのしくないか?」こんなことを言われました。
たしかにそうだ。そんなことができるに越したことはない。どうせやるなら何もないところから自分の手でつくり上げてみたい。土地を安く買って自分で開拓すればいいのではないか?
考え始めるとワクワクしてきました。よし!じゃあトライしよう。そう決めたのが2016年の暮れのことでした。
こうして2017年の初めから場所探しがスタート。空き家は難しいけど土地なら何とかなる・・・そう言われたことを真に受けたのはいいのですが、どこから何をすればいいかがわかりません。まずは知り合い頼りで紹介してもらうのを待つことにしました。
2月初めになってある人から物件が見つかったよと連絡が入りました。すぐさま見に行くことに。候補は2つ。一つは山の中腹にある90坪程度の土地。こうした土地探しは初めてのこともあり、見に行くだけでワクワクしました。難点はすぐ先に家があることでした。
もう一つは1200坪もある山林。メイン道路から1キロ程度入った場所で間口は狭いけど、奥行きが広い横長の土地でした。「ここなら何でも好きなようにできる!」そう感じました。こんなに良い場所がすぐに見つかるなんてラッキー。ここでいこう!そんな思いになりました。
でも実際はここからいろんなカベが発生していきます。そんなに簡単に事は運びません。山があればあとは開拓すればいい、それは安直な話でした。この時から1年。まさに一進一退、試行錯誤の連続を迎えることになります。
山林をイチから開拓は容易ではない
2つ紹介してもらった物件。そのうちの一つは1200坪山林で350万円。安いのか高いのか?それすら見当もつきません。何坪なんて言われてもピンと来ません。実際に現地を見てその広さに驚きました。
山林という呼び名も初。土地には地目というのがあってその中に山林があります。未知の世界オンパレード状態でした。
誰も手をつけていない土地。ゼロから開墾して整地すれば自分の好きなように冒険ができる。木も伐りたいだけ伐れる。家も建てられる。ああしたい、こうしたい・・・頭の中は妄想だらけです。ウキウキワクワク。それだけで頭に血が上りました。でも実際はそんな簡単な話ではありませんでした。
最初にクリアすべき問題は水。水がなければ何もできません。仲介業者は井戸を掘ればいくらでも水は出ているといいます。果たして本当にそうなのだろうか?
もし水道を引き込むとなると現地まで100メートルはゆうにある場所からになります。そのための費用はとんでもない金額。また付近に保育所ができる計画があるとのこと。そういった施設がある場合、キャンプ場などを開設するには制約があることがわかりました。
さらに調べていくと土地に抵当権がついていることも判明しました。不動産売買には基本中の基本のことだが所有者が誰かも確認せず事を進めようとしていました。無知とは怖いこと。不動産屋で詳細を聞くと、どうも売り急いでいる感があります。種々の理由から断念することにしました。
山林という場所がどういうところなのか?売買には何が必要なのか?単に山林があるだけでは事は進まないということ。今回の件でいくつかの学びを得ることができました。そしてこの時から物件探しは難航することになります。
畑には農地転用が必要
その後、別の物件を探し始めます。といって待っていてもなかなか物件は出てきません。ネットで深く深く調べていると、現地で物件紹介をやっている人が見つかりました。かなり古い記事で今も生きているのか否かわからないものでしたが、ダメもとで連絡してみました。
すると一度話をしに来てほしいと言われました。早速行ってみることに。本業は木材加工のような仕事をしている人でした。
「山林でキャンプ場をつくれるような物件がほしい」「できるだけ周囲には民家がないのが望ましい」など条件を伝えました。「今すぐには思いつかないけどそのうち出てくると思う。出てきたら連絡します」そういって別れました。その後しばらく音沙汰はありませんでした。
2ヶ月ほどして電話が掛かってきました。忘れかけていたので最初は誰だろうと思いました。「一つ出てきたので見学に来ますか?」すぐさま行くことに。
到着すると場所は山の中腹。道がカーブになったところの土地でした。入口部分は宅地、その奥が山林ということでした。あわせて300坪といったスペースです。
日当たり眺望ともに良好。山林にはゆずの木があってなかなかいい感じ。斜面になっているけどならせば使えそうです。地主さんの家がすぐ下にあり、打ち合わせをします。
その日は金額の話にはなりませんでした。仲介で入った人が後から感触を訊いてきました。「なかなかいい感じです」「そうですか」「ところで金額はどのくらいですか?」「350万といったあたりかと」
350万と言われると広さの割にちょっと釣り合いがとれません。予算的にももう少し抑えたい。「もう少し何とかならないですかね・・・」「うーん、難しいけどきいてみます」そんなやりとりをして電話を切りました。
家に帰って早速家族会議。問題の水道は道端まで来ているので引き込み工事のみでOK。建物は基礎からになります。まずは小屋的なものでいいのでは?そんなことを考え合わせ値段が少し下がればGOしよう。そんな結論に達しました。もうすっかり買う気になっていました。
ところがどんでん返しが起こることに。最終商談日の前日に仲介の人から電話があります。「結論から言うと先方からお断りの連絡がありました」「えっ?なんでですか?」「山林と思っていた土地の地目が畑だったんです。農地転用をしないといけないのですが通らないとのことです」
農地転用?またしても初めて聞く言葉でした。農地を農地以外にする場合には許可が必要になるというものです。慌ててネットで調べてみました。買うためには農業をやらないといけないなどハードルが高そうです。すっかり購入モードに入っていただけに落胆しました。結果またしても断念することに。
これは後日談ですが、購入まで至らなくて良かったと思います。水道の引き込みには工事代以外に加入金なども発生してそれなりの金額になります。
何より建物をゼロから建てていくことに時間と費用を要したことでしょう。数年かけて準備をするのなら選択肢としてありですが、今回はすぐさま事業展開しようと考えていただけにマッチした物件ではありませんでした。
空き家探しへ拡大
希望するエリアでの場所探しに行き詰まり感が生じていました。これまで数年間、人のつながりなどがあり場所にこだわっていました。でもこのままでは埒があきません。そこで物件を探す範囲を広げることにしました。
さらに建物をゼロから建てていくのに時間を要することがわかりました。このやり方ではなかなか事業スタートまで行き着くことができません。そこで空き家にフォーカスすることにしました。
空き家があって300坪前後の土地があること。これが最低条件です。ネットで空き家を探すと、各地の空き家バンクやふるさと情報館といったサイトがヒットしました。
お客さまの利便性を考え、都内から1時間程度で行ける場所を選ぶ基準に。またまたネットで時間をかけて検索しました。でもなかなかそのエリアに目ぼしい物件は見つかりません。あったとしても前回カベになった農地転用できないというものが多い。
唯一出てきたものが飯能から秩父へ向かう途中にある吾野地区と武甲山界隈。とにかく行ってみることにしました。
吾野地区の物件は駅から徒歩圏にありました。そこは画家だった人がアトリエ的に使っていたものでした。複数の空き家があり、内部はかなり手を入れないといけない状況。
民家が隣接しているので立地としてはNG。焚き火をすること自体にも役場への話が必要になりそうでした。価格は650万円。
現地に行ったついでにもう一か所見に行きました。といっても空き家バンクに掲載されていたものを外からだけ見てみてみようという感じ。物件はログハウス。しばらく人が住んでいない様子です。
裏側にまわるとデッキが壊れ土台も少し腐りかけていました。下には川が流れています。あたりは薄暗い雰囲気。問題は現地に行くまでの道中でした。セメント工場が軒を連ね景観的にどうなのというところ。価格は350万円でした。
別の日にも幾つか物件を見てまわりました。長瀞や皆野といったエリアにも足を伸ばしました。この頃の数ヶ月は毎週のように現地へ出かけました。車の走行距離もハンパありません。でもどこも一長一短。物件探しはますます深みにはまっていきます。
焦りは禁物、購入寸前まで行き着く
エリアを広げたものの、一向に条件に見合う物件は見つかりません。ネット担当である妻は毎日にうにパソコンにかじりついていました。先が見えない状況にだんだん焦りが出てきました。
そんなある日、希望していたエリアでそこそこの物件が見つかります。早速不動産屋に連絡して一緒に見に行きました。
かなり山深く入ったところ。こんな奥があったのという感じです。途中には車がかわせないほど狭い道もあります。「でもこのくらいのところじゃないと人がいないような場所には行き着かないよな」そう言い聞かせながら向かいます。
到着すると木々が生い茂った中に車が3台程度置ける空地ととそこから一段下がったところに小屋が建っていました。そこからさらに下に降りるとほぼ源流に近い感じで川が流れています。駐車場的スペースと小屋、斜面をひっくるめた場所です。価格は450万円。
町に住んでいる人がセカンドハウスとして使っていた小屋。ここ数年使わなくなったので売りに出したとの話でした。川があるのは魅力でした。斜面をならせばテントも数個立てられる、小さなキャンプ場的なこともできる。またもや妄想が湧きだしてきます。
気になったのは隣接して家があること。しかもコンテナのようなものを改造してつくった家らしく、明らかに見た目の印象が悪い。人が住んでなさそうですが実は住民がいるとのこと。でも川がきれいだし、小屋も手を入れたらそれなりになるし。前に進めようという気持ちが先行したのを思い出します。
その日から数回この場所に通い、ここならと仮申込をしました。さらに役場に相談して浄化槽の下見までしてもらいました。でもその後、住民と接触したり、もろもろの問題が露出して断念するに至ります。
冷静になって考え直すと、あんな薄暗い場所で建物もろくにないようなところにお客さまを迎え入れるなんてとんでもない話です。購入しなくて良かったと思います。
キャンセル手続きにもひと悶着があって大変でした。探していると「すべての条件が満たされるものなんてない。どこか妥協しないと」と焦りが出てきます。そんなときこそ頭を冷やして冷静になることをおすすめします。
試行錯誤の末、物件決定
知り合い経由、現地で人を手繰っていく、不動産屋経由、ネットで探しまくる、自分で適当に現地を見てまわる。いろいろやりました。でもこれというものには当たりませんでした。そうこうしているうちに2017年は暮れ、新しい年が始まりました。
年が明けた1月、ふといつも通りネットで見ていると、探しているエリアに物件が出ていました。場所に見覚えがあります。その場所は物件探し中盤に知り合いに紹介されたところでした。物件はログハウス。敷地は100坪強。そこそこの金額。ちょっとどうかなと思いましたがとりあえず見に行くことに。
車で山を登ります。かなり奥に入る感じ。途中道幅が狭いところもあります。現地は標高700メートル。内覧すると丁寧に使われている様子で思った以上にきれいでした。
ロフトをみたときはグッときました。トイレ、風呂、キッチンも完備されています。今まで見てきた空き家とは比べ物になりません。
裏庭に出ると山並みの景色がぱぁーっと広がります。デッキもあり清々しい気持ちになります。眺望は申し分ありません。庭の真ん中にファイヤープレースもつくることができそうです。ここでの焚き火を中心にする。イメージは湧きました。
ただ単に出来合いのログハウスだけだとやりたいことが満たせません。開拓的な冒険要素が外せない要件。裏山の斜面も自分の土地になるようです。斜面の下のところを平地にならせば新たな開拓もできそうに感じました。
どんな感じだろうとスニーカーで降りてみました。するとすってんころりと転んでしまいました。思った以上に斜面はきつい。
帰路につきながらどうするか思案しました。前回一日躊躇したがために物件を取り逃した経験があります。予算はここまでということで不動産屋に交渉することにしました。するとオーナーは物件をまだ売りに出したばかりなのでもう少し時間が欲しいとのことでした。
「じゃあ仮押さえをお願いします。資金の方はこれから用立てになります・・・」不動産屋の声が曇りました。「資金のメドが立たないとお約束はできません。先にそちらをお願いします」
当然といえば当然。まず資金ありきなのです。何を今さらという感じかもしれません。でも現実は物件探しに必死になり資金のことが盲点になっていたのでした。ここから資金調達へ右往左往の毎日が始まることになります。
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