焚き火で親と子のコミュニケーションの場をつくる
焚き火はさまざまなシーンでコミュニケーションを活性化し人間関係を円滑にする場をつくってくれます。本記事では親子関係にフォーカスしてみます。
毎日の生活の中で火そのものが見れる機会は少なくなってきました。お風呂はガスや電気のスイッチを押せばお湯が出ます。IHだと炎も出ません。子供たちは火そのものを見る機会がなくなっています。「火を見たことがないから、火そのものに手を突っ込もうとする子供もいるほどです」とあるキャンプ場の人が言っていました。火ってこんなものなんだ、火をおこすのって大変なんだ、火があるから生活ができているんだ、火って危険なものなんだと感じる。
親子焚き火は、子供に火そのものを体験させることから、火の扱い方を学ばせる機会をつくります。親子で焚き火をすると日常生活では味わえないような体験の連続が待っています。では親子焚き火のいくつかのシーンから親から子供への視点で解説していきます。
スキンシップで触れ合える
焚き火づくりは準備から始まります。まず燃料集めです。薪はキャンプ場で購入してもいいのですが、それだけでは面白さに欠けます。自然のものを拾うところからスタートします。小枝、スギの枯れ葉、松ぼっくり、樹皮といったものです。キャンプ場の中を小探検しながら一緒に探しに行きましょう。拾っていると子供は「これって燃えるかなあ?」と質問してきます。
一見燃えそうにないものであっても「いいね!やってみよう」と言ってあげてください。自分でやってみて燃える、燃えないを体験することに意味があります。「そんなの燃えないから」と親が頭ごなしに言い切ってはいけません。子供の好奇心や可能性をそぐことになります。
大きめの枝があれば一緒に持ち出してみる、拾った燃料を袋に入れて一緒に持つなど子供主体で力添えをしてあげてください。拾っていると、夢中になって山道から足を滑らせたり、迷子になることもあります。子どもから絶対に目を離さず、時折声をかけながら作業をしてください。
燃料集めが終わったら、焚き火台のセッティングです。子供主導で進めてみましょう。取扱説明書を見ながらなんて不要です。こうしてああしてと親子一緒に組み立ててみてください。次は薪を組む作業です。どうすれば火が着きやすいか子供と一緒に考えてみましょう。
ここでも「そんな組み方ではダメ!」と決めつけないことです。あくまで子供がやりたいことを最優先にしてあげることです。うまくいかなかったという体験が大切です。失敗から学んでいくことに価値があります。こうしなさい、ああしなさいと教え魔にならないよう注意してください。放任すればいいのです。そうすれば子供は子供なりに自分で工夫するようになります。
いよいよ火おこしです。できたらマッチを使いましょう。最近はマッチを使いことが少なくなりました。ぜひ子供と一緒にやってみてください。マッチはお手軽に火と木が一番身近に感じられるものかもしれません。火おこしは初めはなかなかうまくできません。よく乾燥した薪でもそのままマッチやライターの火を近づけたところで火が燃え移ることはありません。「そんなことしても着かないよ」ではなく、やってみて知ることです。「じゃあ、どうしようか?」親子で一緒に考えながら少しずつできるようになっていきます。
ナタを使って薪の小割りをする作業もあります。子供一人では難しい作業です。親がサポートしながら使ってみます。刃物の大切さや危険さを教えることができます。「危ないからさわっちゃダメ!」と言っていたら子供は何も学べません。まずはやってみることです。
刃物の危険さを知るために、親が手を添えて刃に軽く触れさせ、「指を切り落とす危険があるからナタを触らない」「ナタを使っている人には気を配る」「周りでふざけない」といったことを教え約束します。このとき刃にはちょんと触れるだけです。ナタの刃はナイフほど鋭利ではないので、触れた程度で切れることはありませんが、刃の上で指を動かさないように注意してください。
以前、親子ゼロ円キャンプというイベントを開催したことがあります。できるだけ自然のものだけを使ってお金をかけずに一晩泊まって生活してみようという企画です。食材にする野菜は地元の産直店で形がいびつで売りものにならないものを分けてもらいました。
プログラムの一つに河原で火おこし講習をするシーンがありました。石を運んできてかまどをつくる、焚き付けを拾ってくる、薪を組んでみる、火おこしするなどを行ったのですが、作業をしているときの子供たちの輝いた目が印象的でした。ゲームや机で勉強ばかりしている毎日では経験できない発見がたくさんあったからだと思います。
焚き火をすると自然な形で親子がふれあうことができます。手をつなぐ、手を取り合うといった物理的なことはもちろん、心と心のふれあいという内面のつながりも生まれます。親子のふれあいがあることで情緒が安定していきます。子供は自分から積極的に取り組む意欲が生まれてきます。
火を扱うには安全への配慮が欠かせません。親子で気持ちを集中させて取り組む必要があります。きちんと覚えてできるようになると自信となり、たくましさも身についていきます。親子で手を取り合って何かをするといった経験が少なくなっていませんか?そんなときは子供と一緒に焚き火をしてみましょう。
心の距離を近づけることができる
以前、薪ストーブ店の店主にこんなお話を聴いたことがあります。ある日のこと夫婦が来店しました。ご主人は薪ストーブが欲しいとのこと。奥さんは全く興味を示していませんでした。後できいてわかったことですが、その人のお宅ではお子さんが不登校になってしまい大変困っていたそうです。そんな中、薪ストーブどころの話ではなかったのですね。でもご主人は強引に「これを買う!」と決められました。
そして薪ストーブを設置して数ヶ月経った頃。購入に反対していた奥さんがお店にいらっしゃってこんな話をされました。「薪ストーブを入れた後に家で少しずつ変化が表れました。それまで全く口をきくことがなく自分の部屋に閉じこもっていた子供がリビングにある薪ストーブのまわりに寄ってくるようになりました。そしてストーブの前で少しずつ会話を始めるようになりました。
学校でのこと、いじめのこと、自分自身のこと・・・今まで貝のように口を閉ざしていたのに。次第に親子の会話が元通りになっていきました。やがて子供も元気になりました。薪ストーブのおかげです・・・」火が親子の関係を取り持った素晴らしいエピソードです。
最近は登校拒否やひきこもりといった子供が多数います。大きな社会問題でもあります。僕たちが子供の頃には考えられなかったことです。何が変わったのでしょう。個が中心の世の中になりました。子供は一人ひとりが独立する部屋をもつようになりました。ネットが普及し、自分だけの世界に入ることも増えました。親と子の直接的なコミュニケーションを薄れています。
そうした結果、お互いの心の距離にすき間はあいてしまっているのが原因ではないかと思います。火のまわりには無意識のうちに人が集まってきます。火のもつあたたかさが身も心もほっこりさせてくれます。火が心を落ち着かせてくれ、自然な会話が生まれるようになります。
少し話は脱線しますが、新型コロナ禍でオンラインが当たり前の世の中になりました。オンラインでコミュニケーションするときには物理的な距離が生まれます。離れているから意思疎通ができないと思われがちです。本当にそうでしょうか?距離があるからつながりが薄れるというのは思い込みでしかありません。
むしろ逆です。離れて直接会えないからこそ余計に相手のことを思いやる気持ちが生まれます。相手の気持ちに寄り添うことができます。心の距離感が大切になります。お互いの心が近ければ物理的に離れていることをカバーしてくれます。IT化が進めば進むほど心の距離は重要になります。焚き火を囲んで心の距離を縮めてみましょう。
童心に戻って同じ目線に立てる
「子供の頃は裏庭でごみを焼いていた記憶がある」「田舎のおばあちゃんの家でお風呂を薪で沸かしたことを思い出した」そんなシーンが蘇り、ふと焚き火がしたくなるときがあります。でも道具もないしそもそも焚き火なんてどこでやれるの?そんな人のために年に数回日帰りで焚き火体験イベントを開催しています。
もちろん大人向けのイベントですが思わぬ光景をみることができます。薪を組んでいるとき、火おこしをしているとき。みんな目がきらきらしています。火がおきるとマシュマロの出番です。キャッキャッと言いながら無邪気に焼いて食べています。みんな無邪気になって焼いています。日が暮れるまで遊ぶことしか考えていなかったあの頃。けがれのないピュアな気持ち。
焚き火は大人を子供に戻させてくれます。常日頃は第一線で仕事や生活をしている人たちでしょう。年齢や性別を超えてこの場ではそんな日常はどこかで飛んでいってしまいます。自分は親だから子供のためにこうする。そんなときも必要でしょう。でも一方で純粋に子供の気持ちになれることが大切なときもあります。
ある日のこと、basekokkoに高校生とお母さんがやってきました。初めて焚き火をするのでやり方を教えてほしいとのご要望でした。ひと通りのことをレクチャーし、まずはやってみせます。そしてやってもらいます。なかなか思ったように火は着きません。見ているときはできそうでも自分でやるとそうはいきません。
「どうして火が着かないのかなあ?」「真ん中に燃えやすいもの、まわりに小枝を置いているんだけどなあ?」親子で一緒に考えています。マッチを擦っても火が風で消えてしまいます。「風が吹いてきているから」お母さんが手を添えて風よけをつくります。試行錯誤の結果、やっと火が燃え移りました。あわてて次の木枝をどんどん足していきます。せっかく着いた火はまた消えていきます。「えっ?なんで?」親子で顔を見合わせます。
「どうしたら火を長持ちさせることができるんだろう?」火が燃えてくると次の疑問が湧いてきます。「組み方をこうしよう」「風向きを考えてみよう」「入れ過ぎかなあ?」一緒に工夫し作業していきます。親子は無意識のうちに一緒になって火をおこすという同じ目標に向かっています。親もはじめてのこと、火をおこすことに必死になっています。自分は親だから・・・そんな気持ちはどこにもありません。無意識のうちに子供と同じ目線になっています。
親自身が興味関心をもって取り組んでいると子供にも伝わります。子供もそれでいいんだと思います。子供がもつ個性を引き出すことにつながります。焚き火は親と子供が同じ目線で学べる自然の教材です。
普段話さないことが話せる
親子というと小さな子供をイメージするかもしれません。実は成人した親子という関係もあります。ある時、50代のお母さんと20代の娘さんが二人でbasekokkoに訪れました。「こんなに二人でじっくり話したのはいつ以来だろう?」「心が落ち着く素敵な時間を過ごすことができました。また絶対来たいです」チェックアウトのときこんなうれしい言葉をかけていただきました。二人ともとても晴れやかな表情でした。
その日はあいにくの雨でしたがテラスの前に小さな焚き火をおこし、雨音を聴きながらお酒を片手に夜遅くまで語り合っていらしたようです。もちろん会話の内容まで知る由もありません。ただ二人の間に今までとは少し違う新しい何かがが生まれた印象を受けました。大人になった子供と過ごす特別な時間。焚き火はそんな演出もしてくれます。
子供が大きくなると、お互いに気恥しさもあって面と向かって話す機会がなくなっていきますよね。改まってちゃんと話そうなんて言うと余計に構えてしまいます。空気がギクシャクして自然な会話なんてできなくなります。そんなときこそ焚き火です。
焚き火が真ん中にあると顔をみながら話さなくてもよくなります。何か話そう話そうとしなくても黙っていれば済みます。お互いが話したくなったら話すという空気感の中で自然な形で胸の内を伝えることができます。「お父さんって昔そんなことをやってたんだね」「お前もそうだったのか」親子ともに今まで知らなかった一面を知り合えたり。焚き火の前で親子の対話は何気ないキャッチボールから深いところでつながっていきます。
強い絆をつくる
baseKokkoを訪れる人には一組一組に物語があります。ある時、聴覚に障害のある親子にお越しいただいたことがあります。お母さん二人とそれぞれのお子さん連れで9人の大所帯。上は中学生から幼稚園くらいまで全員が一台の大型ハイエースに乗り込んでやってきました。こんなにたくさんの子供たちがいたらさぞ部屋も散らかることだろう。そんなふうに思っていました。
でもふたを開けるとそんなことはありませんでした。部屋の中は整理整頓が行き届いていました。子供たちみんなマナーができていました。お母さんは屈託のない笑顔を振りまいています。子供たちもそんなお母さんに慕っています。一方で場面場面で節度ある振る舞いもありました。たのしむときは一緒にたのしむ。しつけるところはきびしくやる。お母さんの姿勢にはそんな雰囲気があります。身振り手振りそして豊かな表情で伝える。言葉が話せない分、親子のコミュニケーションには普通にはない深いものを感じました。
翌朝のこと。「昨日は深夜まで親子で焚き火をながめていたんですよ」片言の言葉でお母さんがうれしそうに話してくれました。耳が聴こえない分、視覚、嗅覚、触覚などの五感、感性が立っているではないかと思います。夜の静寂の中、ただ揺れる炎を見つめながら親子が同じ時間を過ごしていた様子が容易に想像できました。
子供たちの中に一人、人見知りなのか僕たちと顔を合わせることを避けているふうの小学生がいました。その子がチェックアウトのとき満面に笑顔を見せてくれました。そしてとってもたのしかったと表現してくれました。見送りのとき、姿か見えなくなるまで車の窓から身を乗り出して手を振ってくれたシーンがいまだに脳裏に焼き付いています。焚き火の炎を介して、親子の非言語コミュニケーションが行われる。そのことで今まで以上に親子の絆が深まっていく。まさにそれを実感した出来事です。
焚き火と向き合う、不便さに向き合うことで暮らしがひと昔前に戻った感じになります。その分ゆっくりとした時間が流れていきます。そんな時間を共有しながら生きる実感を感じることができます。学校の成績、受験、進路のことばかりでもしかしたら希薄になりがちな親子関係。子供にとって、そして親子にとって一番大切なものは何なのか。焚き火はそのことをそっと教えてくれる存在かもしれません。
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